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松山地方裁判所 昭和35年(ワ)18号 判決 1960年5月13日

原告 株式会社重松兄弟設備商会

被告 金子正男

主文

被告は原告に対し金九万五千円並びにこれに対する昭和三十五年一月二十一日から完済に至るまで年六分の割合による金員を支払え。

訴訟費用は被告の負担とする。

この判決は原告において仮りにこれを執行することができる。

事実

原告訴訟代理人は主文第一、二各項同旨の判決並びに仮執行の宣言を求め、請求の原因として

一、原告は昭和三四年一〇月一二日、額面金一三万円、支払人被告、支払期日昭和三四年一二月二〇日、支払地振出地各松山市、支払場所四国銀行松山支店、振出人、受取人各原告なる為替手形一通を振出し、被告は昭和三四年一〇月一三日これが呈示をうけて引受けをなし原告は現にこれが所持人である。

二、被告は昭和三四年一二月二六日右為替手形金元本に対し金三万五千円の支払いをしたが、その余の支払いをなさない。

三、そこで、原告は被告に対し右為替手形金元本残額金九万五千円ならびにこれに対する訴状送達の日の翌日である昭和三五年一月二一日から完済に至るまで商法所定年六分の割合による遅延損害金の支払いを求める。

と述べ、被告主張事実中代物弁済に関する部分を否認し、(昭和三四年一二月二五日頃被告より訴外和田俊春振出の額面金三万五千円の約束手形を受領したことはあるが右は代物弁済として給付せられたものでなく且振出人が支払期日に支払いを拒絶したためその支払いは受けていない。」と述べた。

被告は合式な呼出状による呼出を受けながら最初になすべき口頭弁論期日に出頭しなかつたが、「原告の請求を棄却するが五万七千円は承認する。訴訟費用は原告の負担とするとの判決を求め答弁として原告主張事実中第一項は認め、その余を否認する。被告は原告に対しその承諾をえて昭和三四年一二月二五日訴外和田俊春振出にかかる額面金三万八千円の約束手形を本件手形金中同額の弁済に代えて給付したので右同額の弁済は了つている上、翌二六日被告は原告に対し右手形金に対し金三万五千円を弁済しているので以上の限度で本件債務は消滅している」旨の記載のある答弁書を提出した。

理由

答弁書記載事項は請求の趣旨に対する答弁中「五万七千円は承認する」との記載部分を除きその余は民訴第一三八条により被告の陳述したものとみなす。

右陳述を除外した部分は原告の請求中その一部である五万七千円につき請求の認諾をなす趣旨の記載と認められるところ、認諾する旨の答弁書を提出した被告が最初になすべき口頭弁論期日に欠席した場合民訴第一三八条により右認諾を擬制陳述しうるかについて勘案するに、適切な判例は見当らないがこの点につき積極(昭和一一年一〇月一四日法曹会決議、菊井維大村松俊夫共著民訴法Iコンメンタール四六三頁)消極(昭和二九年二月一一日法曹会決議ヽヽヽもつとも擬制陳述の対象とはなるが認諾の効果は生じないとの見解)両説あるが、請求の認諾は口頭弁論又は準備手続において裁判所又は準備手続をする裁判官に対し原告の請求の全部又は一部が正当である旨を一方的に口頭で陳述するを要すると解せられるところから、被告が期日に出頭して初めて陳述しうるものであつて民訴一三八条による擬制陳述の対象の範囲外にあると解するのが相当といわなければならない。

以上の理由により、右請求の一部認諾部分を擬制陳述の範囲から除外するものである。

原告が昭和三四年一〇月一二日その主張のとおりの為替手形一通を振出し、被告が同年一〇月一三日これが呈示を受けて引受けをなしたこと、原告が現にこれが所持人であることは当事者間に争いがない。

被告は昭和三四年一二月二五日訴外和田俊春振出の額面金三万八千円の約束手形を以て本件債務中右同額の代物弁済をなしたから右限度で右債務は消滅していると主張するところ、これを認めるに足る何等の立証をなさないからその主張は採用の限りでない。

次に被告は昭和三四年一二月二六日本件債務に対し金三万五千円の弁済をなしたので右限度で本件債務は消滅した旨主張するところ、右事実は原告において自白(昭和八年二月九日大審院判決参照)するところであるから、被告の右主張は理由がある。

右次第であるから、被告は原告に対し前記既払額を差引いた為替手形金元本残額金九万五千円並びにこれに対する本件訴状送達の日の翌日であること本件記録により明白な昭和三五年一月二一日から完済に至るまで商法所定年六分の割合による遅延損害金を支払うべき義務がある。

そうすると、原告の請求はすべてこれを相当として認容し、訴訟費用の負担については民訴第八九条、仮執行の宣言については同第一九六条第一項をそれぞれ適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 矢島好信)

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